てにらぼ

テニスを科学する -tennis training lab-

テニスと乳酸

運動と乳酸

最近修論が忙しく、なかなかアウトプットに手を付けられずにいました。

しかし、発信できてこそ本物の知識であると思うので今回は僕が実験でも取り扱っている「乳酸」について書いていこうと思います。

言葉の使い方として、「乳酸が溜まってきたなー」とか「乳酸で太ももパンパンだわ」とか聞きますね。乳酸が筋肉に溜まってきて筋肉が動かしづらいということが一般的に知られているわけですが、乳酸がなぜできるのか分かっている人は少ないかと思います。更にテニスと絡めて考えると、テニスという競技は乳酸が溜まりやすいのか(乳酸性)、ホントは溜まりにくいのか(非乳酸性)...理解しておくと良いかと思いますので今回は運動の話題につきまとう乳酸についてお伝えしていきます!

テニスのエネルギー供給系

まず、体力面から見たテニスの主な競技特性は以下です。

① 1ポイントにかかる時間は終了まで平均しても、10秒以下である 

② 1ポイントの移動距離は終了まで平均しても約4mである

③ ポイント間インターバルは20秒間である

 

この3つから対応して、更に生理学的に分析します。

①約7秒間の運動は筋肉に元々貯蔵されているATPを用いる

ATP:筋肉を収縮するのに必要な化合物、貯蔵できる量は少ないので再合成している。

②移動距離が短く、スプリントがほとんどない

③間欠的な運動であることが約束される

 

エネルギー供給系で言ったら貯蔵ATPで運動できる「ATP-CP系」が優位であるスポーツだとわかります(前記事も参照:テニスと体力②)。また、ゆっくりと酸素を摂取できるインターバルが保証されています。ここまでのヒントでもテニスという競技が「乳酸性」「非乳酸性」どちらなのか見当がつきます。

なぜ乳酸ができるのか

それは上にも書いた「ATPが貯蔵できる量は少ないので再合成している」という理論から説明できます。まず私たちの筋肉に貯蔵されているATPですが、実は運動1秒分の量しか貯蔵されていません。従って上の①はうそでした(´ε`;)…しかし、嘘をついたのにはワケがあります!

ATPは運動中に無くならないよう、体内の工場である細胞で再合成しています。「ATP-CP系」のCPとはクレアチンのことで、クレアチンは化学反応(リン酸化)によって、とてつもなく早い速度でATPを再合成することができます。元々そこにあったかのような速度で筋肉にATPを供給するので貯蔵が7~8秒分あると言ってしまったほうが分かりやすいのではないでしょうか。

 

さらに「ATP-CP系」の供給が追いつかないと、糖質を急いで分解してATPを再合成する「解糖系」へとエネルギー供給系は移行します。糖質を分解するとその副産物である乳酸が溜まっていきます。乳酸も最終的には分解されるのですが、連続した運動のような細胞がバタバタしている状況では、そこまで分解する暇がないため乳酸がどんどん溜まっていくのです(図1)。

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図1,全力運動中のエネルギー供給系の推移(下に発揮パワーと乳酸の関係)厳密に言うと解糖系は初めから関与しています。

 テニスは全力運動ではなく、連続的な運動場面は少なく(ほぼ10秒以下)、酸素摂取できる(乳酸をある程度分解できる)インターバルも保証されるので乳酸は蓄積されにくいでしょう。まぁ長い目で見ると、糖質は必ず分解しているので副産物である乳酸も少しは増えるかもですが、やはり疲労を感じる位の量が増えているかと言われればそうではないです。なのでテニスは「非乳酸性」の競技であると言えます。

乳酸が溜まる=疲労 は正しいのか

激しい運動によって生成され、溜まった乳酸は筋から血液に漏れ出します。そして普段は弱アルカリ性状態にある血液(pH7.35~7.45)を酸性に傾けます。血液が酸性に傾くことが結果的に疲労のメカニズムとなります。しかし人間の体は過剰な酸性や塩基(アルカリ)性を防ぐ平衡性が常に働いており、よほど過剰な乳酸で血液が酸性に傾かない限りこのようなことは起こりません。疲労の本当の要因とは何なのでしょうか?

 特にテニスで感じる疲労は肉体的にではなく、精神的な要因の方が大きいのではないかと個人的には考えています。同じ運動量であったとしても、勝った試合と負けた試合とでは疲労感が違うでしょう。 指導者は、疲労度(肉体的)と疲労感(精神的)を分けて選手をモニターする必要があります。