てにらぼ

テニスを科学する -tennis training lab-

テニスと体力 ー無酸素能力とはー

テニスと無酸素能力

スポーツの世界には、長い間持続して酸素を取り入れる競技者 [マラソン・水泳長距離]や、少ない酸素でパフォーマンスを完遂する競技者[陸上の短距離・ウェイトリフティング]など競技特性に応じた様々なタイプの人がいます。前者は特性上、VO2MAXは高値を示すことになります。

私の見てきた中ですと、陸上長距離選手は約60ml/kg/min、陸上短距離選手だと約40ml/kg/minで、バラつきがありました。大学生など熟練の競技者ほどその競技特性に応じてVO2MAXがはっきりと分かれるようです。

 

 

さて、前置きが長くなってしまいましたが・・・

日本テニス協会ナショナルチームに所属する男子ジュニア(中学・高校生)~ユニバーシアード選手の有酸素能力を見てみましょう。実施された20mシャトルランテストから、VO2MAXを推定してみます(小屋ら,2014)。ちなみに各世代の平均回数は12~14歳で125回、15~17歳で136回、18歳以上で138回でした。

 

f:id:tennis-lab:20170121020317p:plain

 

また、とある男子プロテニスプレイヤー(全日本優勝経験有)のVO2MAXは、実測値で46.4ml/kg/minというデータでした。なんと、マラソンはジュニアよりプロの方が遅い可能性がでてきますね。どうやら実力者ほど「有酸素能力」が高いかと言われれば、そうではないようです。

 

運動になぜ酸素が必要なのか

そもそもなぜ運動をすると酸素摂取量が増えるかというと、筋肉に元々含まれている筋肉を動かす基本物質「ATP(アデノシン3リン酸)」を再合成しなければならないためです。

運動をするほどこの物質は消費されます。そのため呼吸を盛んにすることで肺へ多くの空気を取り入れ、血液に酸素を多く取り込み、それにより糖や脂質を分解することでATPを再合成するのです。

 

また、元々筋肉に貯蔵されている分のATPを使う(ATPーCP系)だけなら酸素を必要としません。この予め貯蔵されているATPで、約8秒間筋肉を動かし続けることができます。この時の力を有酸素能力と対照的に「無酸素能力」と呼ぶのです。

 

プロ・アマ問わず試合において1ポイントにかかる時間は5~10秒で、平均移動距離が2.5mくらいです(ferrauti,2003)から、大体のプレーはこの無酸素能力によるものだと考えられます。これ以上の運動時間だと、先ほどの話のように糖質を分解してATPと乳酸を産生する解糖系を経て、より多くの酸素を取り込んで糖質+脂質を分解してATPを産生する有酸素系へと移行していきます。この有酸素系の能力が有酸素能力なのです。

※解糖系にも無酸素寄り・有酸素寄りがありますがここでは無酸素寄りを前提に話をしています

 

テニスは貯蔵ATPを用いるATP-CP系と、使ったとしても無酸素よりの解糖系までのエネルギー供給系を主に用いることになります。試合で有酸素能力が求められる場面は少ないのです。

 

全日本優勝経験のある方が、有酸素能力でナショナルジュニアより低い値が出たことも含めて、有酸素能力ではテニスの実力を推し量れないことが分かりました。

ただ、有酸素能力が高いほうがキツくて長い運動に対する心拍数が低くなるのでハードな練習で集中でき、動きの質を落とさずに取り組めるようになるため練習効率は良くなります。基礎体力(有酸素能力)があれば練習効率が上がるというわけです。

 

 例:振り回し系ストローク練習で「〇〇球連続で入れる」ことを目標とした時、心拍数が上がって苦しくなり精度が落ちますが、有酸素能力が高ければ改善される。。。等

 

 しかし試合で必要なのは基礎体力ではなく、短時間の動きの質となります。

 

短時間高強度のインターバルトレーニングでも、限界まで追い込めた時に限り無酸素能力だけでなく有酸素能力も向上させることができます。なのでインターバルトレーニングでしっかり追い込むことをベースに体力向上に取り組むべきでしょう。

 

例:100m全力スプリント(15~20秒以内)→レスト(10秒)×7セット。。。等

→しっかり追い込めれば6週間でVO2MAXが13%、無酸素能力が35%向上する可能性があります。

 

まとめ

テニスにおいて有酸素能力は練習にはある程度必要ですが、試合においては1ポイントにかかる時間・移動距離の関係から(酸素摂取量が限界まで高まることがないので)重要ではありません。

また、有酸素能力はインターバルトレーニングでしっかりと呼吸器系を追い込めれば向上するので日々のマラソンなどで高めようとすることは非効率的です。

ラソンなどは、試合中の暑さに慣れるために行う脂肪を落とすために行う運動が久しぶりで激しい運動が傷害の危険性を持つなどの理由があれば行っても良いと思います。

 

俺なら人目もはばからず、家の裏でインターバル7本やっちゃいますね(笑)