てにらぼ

テニスを科学する -tennis training lab-

テニスと乳酸

運動と乳酸

最近修論が忙しく、なかなかアウトプットに手を付けられずにいました。

しかし、発信できてこそ本物の知識であると思うので今回は僕が実験でも取り扱っている「乳酸」について書いていこうと思います。

言葉の使い方として、「乳酸が溜まってきたなー」とか「乳酸で太ももパンパンだわ」とか聞きますね。乳酸が筋肉に溜まってきて筋肉が動かしづらいということが一般的に知られているわけですが、乳酸がなぜできるのか分かっている人は少ないかと思います。更にテニスと絡めて考えると、テニスという競技は乳酸が溜まりやすいのか(乳酸性)、ホントは溜まりにくいのか(非乳酸性)...理解しておくと良いかと思いますので今回は運動の話題につきまとう乳酸についてお伝えしていきます!

テニスのエネルギー供給系

まず、体力面から見たテニスの主な競技特性は以下です。

① 1ポイントにかかる時間は終了まで平均しても、10秒以下である 

② 1ポイントの移動距離は終了まで平均しても約4mである

③ ポイント間インターバルは20秒間である

 

この3つから対応して、更に生理学的に分析します。

①約7秒間の運動は筋肉に元々貯蔵されているATPを用いる

ATP:筋肉を収縮するのに必要な化合物、貯蔵できる量は少ないので再合成している。

②移動距離が短く、スプリントがほとんどない

③間欠的な運動であることが約束される

 

エネルギー供給系で言ったら貯蔵ATPで運動できる「ATP-CP系」が優位であるスポーツだとわかります(前記事も参照:テニスと体力②)。また、ゆっくりと酸素を摂取できるインターバルが保証されています。ここまでのヒントでもテニスという競技が「乳酸性」「非乳酸性」どちらなのか見当がつきます。

なぜ乳酸ができるのか

それは上にも書いた「ATPが貯蔵できる量は少ないので再合成している」という理論から説明できます。まず私たちの筋肉に貯蔵されているATPですが、実は運動1秒分の量しか貯蔵されていません。従って上の①はうそでした(´ε`;)…しかし、嘘をついたのにはワケがあります!

ATPは運動中に無くならないよう、体内の工場である細胞で再合成しています。「ATP-CP系」のCPとはクレアチンのことで、クレアチンは化学反応(リン酸化)によって、とてつもなく早い速度でATPを再合成することができます。元々そこにあったかのような速度で筋肉にATPを供給するので貯蔵が7~8秒分あると言ってしまったほうが分かりやすいのではないでしょうか。

 

さらに「ATP-CP系」の供給が追いつかないと、糖質を急いで分解してATPを再合成する「解糖系」へとエネルギー供給系は移行します。糖質を分解するとその副産物である乳酸が溜まっていきます。乳酸も最終的には分解されるのですが、連続した運動のような細胞がバタバタしている状況では、そこまで分解する暇がないため乳酸がどんどん溜まっていくのです(図1)。

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図1,全力運動中のエネルギー供給系の推移(下に発揮パワーと乳酸の関係)厳密に言うと解糖系は初めから関与しています。

 テニスは全力運動ではなく、連続的な運動場面は少なく(ほぼ10秒以下)、酸素摂取できる(乳酸をある程度分解できる)インターバルも保証されるので乳酸は蓄積されにくいでしょう。まぁ長い目で見ると、糖質は必ず分解しているので副産物である乳酸も少しは増えるかもですが、やはり疲労を感じる位の量が増えているかと言われればそうではないです。なのでテニスは「非乳酸性」の競技であると言えます。

乳酸が溜まる=疲労 は正しいのか

激しい運動によって生成され、溜まった乳酸は筋から血液に漏れ出します。そして普段は弱アルカリ性状態にある血液(pH7.35~7.45)を酸性に傾けます。血液が酸性に傾くことが結果的に疲労のメカニズムとなります。しかし人間の体は過剰な酸性や塩基(アルカリ)性を防ぐ平衡性が常に働いており、よほど過剰な乳酸で血液が酸性に傾かない限りこのようなことは起こりません。疲労の本当の要因とは何なのでしょうか?

 特にテニスで感じる疲労は肉体的にではなく、精神的な要因の方が大きいのではないかと個人的には考えています。同じ運動量であったとしても、勝った試合と負けた試合とでは疲労感が違うでしょう。 指導者は、疲労度(肉体的)と疲労感(精神的)を分けて選手をモニターする必要があります。

カロリーを知り、カラダをつくる

なりたいカラダは自分で作る

最近、どうやってマッチョになるの?どうすれば痩せるの?など体つくりに関する質問をよく受けるので、今回はテーマをフィットネス寄りにして書いていきたいと思います!

近年、パーソナルトレーナーによる運動処方と食事調整によって体つくりを行う人が増えています。運動については、まず外を走ってみたり、トレッドミル(ランニングマシーン)に表示された消費カロリーを眺めたりする人が多いのではないでしょうか。しかし食事の調整については、具体的なことが分からない人が多いのではないかと思います。大前提として、食事を極端に減らすダイエットはせっかく身に付けた筋肉を落としてしまったり、健康を損なうので絶対にやめましょう。人間が健康を最低限維持するために必要なカロリー量は基礎代謝(体温調節など生命維持・恒常性のために消費しているカロリー量)と呼ばれており、ここにその日の身体活動(仕事や運動)によって消費するカロリーを上乗せし、そこから収支計算することが理想的な体重を目指すための基本的な考え方となります。ベースとなる基礎代謝量は個人によって異なります。なので他人と比べるのではなく、減量・増量したい方は数字を自分で管理して取り組むことが大事です。さぁ、あなたの基礎代謝量を確認してみましょう。

 カロリーコントロール

 「カロリー」とは、ラテン語で「」を意味するcalorに由来しています。食事によって摂取した栄養素を、酸素を利用しながら分解してエネルギーに変換するときに発生する熱量の単位です。これが「消費カロリー」と表現され、摂取食品の栄養素自体が「摂取カロリー」と表現されています。カロリーを持つ栄養素は、三大栄養素とよばれる糖質・脂質・タンパク質だけです(糖質・タンパク質:4kcal/g  脂肪:9kcal/g)。消費カロリーが摂取カロリーを上回れば体重は減少し、摂取カロリーが消費カロリーを上回れば体重は増加しますから、体重を維持したければ収支0を目指して生活すれば良いわけです。

 「高カロリーの食事」とは、エネルギーへの分解までに体内で多くの酸素を必要とすることを意味します。そして多くの酸素を得るためにはそれに見合った身体活動が必要になってきます。三大栄養素の中で脂肪は特に高カロリーなので脂肪中心の生活だといわゆるエネルギーまで分解されなかった燃え残りが出やすいのです。その分が中性脂肪となり皮膚の下にある脂肪組織に回されてしまいます。それが膨らんで肥満です。多くの人が危惧するのはここですね。。。まぁカロリーを脂肪以外から積極的にとれば良いのですが、ここは最後で解説しましょう。

 基礎代謝量を計算しよう

1日の消費カロリー(総エネルギー消費量)は、今から計算する基礎代謝量に身体活動レベルを乗じることで分かります。基礎代謝量の計算には体脂肪率が必要ですが、ジムや家電量販店にある電極のついた体重計で簡単に測定することができますので、把握できる前提で話を進めていきます。ここからはカロリーの単位をkcalと表記していきます

除脂肪体重とは、脂肪を除いた体重(主に筋肉・臓器・骨格の重さ)のことです。これは脂肪の重さを体重から引くことで求めます(体重×体脂肪率=脂肪の重さ)除脂肪体重1kgあたり、28.5kcal消費しているので求められた除脂肪体重に28.5をかけることで基礎代謝量が明らかになります(JISS式)。詳しくは下の例をご覧下さい。

 例:体重70kg体脂肪率20%のAさん男性(女性)の1日の基礎代謝量など

 ・体重:70kg                                               

体脂肪率:20%                   70 × 0.2 = 14

・除脂肪体重:56kg                 70 - 14 = 56

基礎代謝: 1596kcal                  56 × 28.5 = 1596

・安静時代謝量:1915kcal               1596 × 1.2  =  1915

・一日の消費カロリー:3192kcal    1596 × 2.0  =  3192

(一日2時間ほどのテニスを行う場合)

 

Aさんの基礎代謝量は約1596kcalということが分かりました。生命維持のためには摂取カロリーが最低限このライン必要になります。もう少しゆるい条件で、運動とまではいかないが座ったり寝たり安静に酸素を摂取している安静時代謝においては、この1.2倍の約1915kcal消費しています。

しかし、人間はさらに歩いたり、座ったり立ったり、事務仕事など生活の中で最低限の身体活動を行い+αの酸素を消費しています。二重標識水と呼ばれる、特殊な水を飲んだ後の尿検査で一日の酸素消費量がわかる実験があります。それによると一日2~4時間のテニスを行う50歳代の女性の1日の消費カロリーは基礎代謝量の約2倍になることが分かりました。基礎代謝量に乗じる身体活動レベルの係数は2.0となります。他にも軽めの運動で1.5~1.7、マラソンや高校野球並みの練習量で2.5~2.6になります(日本人の食事摂取基準,2010 ・日本体育協会,2013)。

テニスなどの球技系スポーツの身体活動レベルは「2.0」となりますので

基礎代謝量 × 2.0 = 1日の消費カロリー

となります。Aさんの1日の消費カロリーも上の例に出したので参考にしてみてください。

まとめ(食事のアドバイス

食事調整のアドバイスですが、現在の体重を維持したいのであれば一日の消費カロリーをざっくりと計算してそれに見合った食事による摂取カロリーを心がければ大丈夫です。摂取カロリーの内訳は糖質(炭水化物)45~65%、脂質20~35%、タンパク質10~15%にするのが理想ですので下の例で参考にしてください。

 例)約3200kcal摂りたかったら・・・

糖質500g × 4kcal  =  2000kcal    61%

脂質90g   × 4kcal  =    810kcal    25%

タンパク質120g    × 9kcal =  480kcal    15%                計  3290kcal  

 

 冒頭でも書きましたが、消費カロリーが摂取カロリーを上回れば体重は減少し、摂取カロリーが消費カロリーを上回れば体重は増加します。カロリーバランスが正なら体組織の同化(合成)が促進され、カロリーバランスが負なら異化(分解)が促進されるためです。負の場合少なからず筋肉も分解されますから、筋肉量をキープしたまま体重を落とすことは理論上不可能です。脂肪と筋肉は必ずどちらも落ちます。相対的にどちらの方が落ちるかは遺伝による個人差があります。

 

体重を増やしたい人は脂肪を増やしたいのではなく、筋肉を増やすことで増量したいのでしょう。摂取カロリーの余剰分を全て筋合成に使いたいのであれば当然タンパク質からのカロリー摂取を増やすことが大事です。体重1kg×2gのタンパク質を摂取するよう心がけてください(体重70kgの人であれば140g)。タンパク質は肉などに含まれるわけですが多く摂ろうとすると当然脂肪もセットですし、これだけの量のタンパク質を摂ろうとすると相対的に脂肪の量も高くなります。そのため低脂質高タンパクの鳥胸肉や手軽に補給できるプロテインの力を借りる必要があります。筋肉を増やして増量するのにはコツが要るのです。

 

食事を意識すると体は驚くほど変化します。私たちの体は食べたものを燃やしてエネルギーにして、その栄養素の恩恵を受け続けているのですから当たり前ですね。

なりたいカラダは運動と食生活の二本柱で行わないと結果が出ません。普段トレーニングに勤しむ方は、食事を変えただけで体の変化を直ぐに感じることができるはずです。

運動連鎖のすすめ

運動連鎖、説明できますか?

よく指導の現場で「運動連鎖をつかえていない」「運動連鎖がしっかりしている」などといった評価が見られます。概念的なものではなく具体的に、運動連鎖とは一体どのような動きなのか理解し、トレーニングによって身に付けていきましょう。

 

運動連鎖(kinetic chain)とは読んで字のごとく、下肢から上肢(上肢から下肢)へ各関節を連鎖させ、末端(手・足)へ有効な力発揮を行わせることです。体の中心部の方に筋力があり、末端の方は質量が小さいため、筋力によって慣性の小さい末端部は大きな速度が生み出され、パワーとなります。これが運動連鎖のメカニズムです。

要は、肩の筋肉によって上腕が加速できれば良く、股関節の筋肉で膝が加速できれば良く、大きい筋肉で末端を加速させることがパフォーマンスにつながるということです。テニスにおいて末端は手首の先にあるラケットであり「その動作がラケットヘッドスピードの獲得に貢献できているかが運動連鎖の評価となります。

運動連鎖の取得には「クイックリフト」が最もスタンダードで有効なトレーニングです。

 

ウェイトリフティング選手だけのものではないぞ「クイックリフト」

 運動連鎖に必要なクイックリフト系(全身で瞬時にバーを持ち上げる)種目の習得は、毎年3月に開催されるナショナルトレーニングセンターでの12歳以下の修造チャレンジでも取り入れられるようになり、テニス選手がウェイトリフティングの専門家に見てもらう機会も増えるようになりました。今回、クイックリフト系種目の中から「パワークリーン」と呼ばれるものを紹介します。スマホの縦長画面で見ることを推奨します(;´д`) ↓↓

 

 


テニスと運動連鎖

 

膝関節を伸ばす → 股関節を伸ばす → 母指球で押す → 肩を引き上げる」一連の動作によって、バーを正確にかつ素早く挙上できることを通して効率よく力発揮できる能力(=運動連鎖)が身につけられます。
最大筋力を大きくしたいのであれば、ベンチプレスで重いものを頑張って上げていれば良いでしょう。しかし、その最大筋力が実際の競技に近い動作(多関節動作で高速度条件)で使えるか話は別です。だって、ラリーは1〜2秒間隔で動作(パワー発揮)を繰り返すんですよ?

関節を連動させてその力の伝え方を身につけたい時にはクイックリフトを行うべきであり、ベンチプレス・スクワットなどの最大筋力トレーニングと組み合わせて行うことで最大の効果を発揮します。

最低でもバーの重さ(10~20㎏)を、腕の力に頼らずに爆発的に上げることが出来ればテニスに必要な運動連鎖を身につけられたことになります。爆発的な動作はスイングスピードの向上に繋がり、結果として回転量・ボールスピードのマックスを上げることに繋がります。軽いもので動きの習得をした後に少しずつ負荷を上げていきましょう。

膝関節・股関節・足関節の伸展パワーは、単純なダッシュ・バスケットボールのリバウンド・ピッチング等「走・跳・投」の身体動作にも応用されますから、クイックリフトはあらゆるスポーツに効果的なトレーニングです。

テニスとフットワーク②-オンコートスピード-

短い距離でスピードを出すには

前回のブログで、テニスは50・100m走で分かるようなトップスピード能力の貢献はほぼ無いことが分かりました。その理由は「必要な助走距離が足りないから」でしたね。

 

しかし、遠いところに来たボールに対し素早く追いついてフォアハンドやバックハンドグラウンドストロークを打つことを求められる場面があります。そのために4m・6mの短い距離でも可能な限りトップスピードを引き出せる能力がテニスには求められます。短距離での加速が上手く、抜群のコートカバー力を誇る清水悠太選手のプレーを覗いてみましょう。

 

www.youtube.com

 

最初のトレーニング動画では、6mの距離をおよそ1.4秒内でカバーリングしています。つまり4mを1秒でカバーできる相手・・・敵に回したら恐ろしいですね(笑) ラケットを持った時でも、トレーニング動画の時と遜色ないスピードで動けています。

清水選手の優れた点は、ピッチ(歩数)を急激に増加させることによって加速できることです。1秒以内に4歩出します。鬼速いです。

 

短い距離での速度の立ち上がりには、このようにピッチの増加が大きく貢献します。しかし1歩1歩が短いのでは意味がありませんよね。足の接地時間が短いながらも大きな推進力を得て、素早く次の足を出しているから優れているのです。

 

推進力は「地面を蹴る力(F)×作用する時間(t)」(方向は無視します)という力積に基づいて考えます。足の接地時間(t)を短くしつつ、推進力を得ているわけですから単位時間あたりの(F)が大きいということです。

 

推進力 = 蹴る力 × 足の接地時間

 

 そのため「短時間に大きな力を発揮することを素早く繰り返す」トレーニングが有効となります。代表的なトレーニングがプライオメトリクストレーニングです。

 

ショートレスポンス(接地時間0.25秒以下)

フットワークに役立つトレーニングと言われてあなたは何を思い浮かべるでしょうか。下半身を使うスクワット、レッグプレスマシーン、単純な短距離走、ラダー・・・etc 

これらもやり方によっては正しいトレーニングです。しかし「スクワットが100kg上がる」「レッグプレスが180kg上がる」といった最大筋力がテニスコート上でのフットワークに反映されているかは別に考えなければいけません。

なぜなら、重いウェイトを上げる時のようなじわーっとパワー発揮する場面はテニスにおいてサーブを除いて無いからです。

 

コートでの素早いフットワークにおける足の接地時間は0.25秒以下のショートレスポンスです。この時間内で推進力を発揮させるということは、時間をかけて発揮される最大筋力の貢献はまずないということです。

つまり、テニスコートで素早くなるためには、短時間(短い接地時間)で大きな力を発揮することを目標にプライオメトリクストレーニングを導入しなければならないのです。

 

ではプライオメトリクストレーニングの例を挙げてみましょう。

www.youtube.com

 

プライオメトリクスとは、着地で伸ばされた足の筋肉が、すぐに筋活動を行うことによって縮む「弾性収縮」を利用した運動です。疲れてくると動作が遅くなり弾性収縮が上手く利用できないため、トレーニングの際は休憩を多めに挟みながら行う必要があります。

 

ボックスドリルの例のように接地時間を短くし、足を素早く入れ替え、その中でパワー発揮するトレーニングを繰り返すことによって短い距離でも推進力を得て、可能な限りトップスピードを引き出せるようになります。テニスだけでなく、バスケットボールやハンドボール等の助走距離の少ないコート条件下でスピードが求められる競技では有効なトレーニングとなります。

 

まとめ

プライオメトリクスについて、何となくイメージしていただけたでしょうか゚(´ε`;)

プライオメトリクスを一言で表すと「反動を使って素早く動き出すこと」です。これだけでも覚えればトレーニングに関する知識が一層深まること間違いなしです。

このような神経ー筋の改善トレーニングはやったことがない人ほど効果が高いので、試してみる価値があります。俗に言う使ったことない神経を使うってやつですね。 

テニスと体力②ー無酸素能力ー

テニスと無酸素能力

スポーツの世界には、長い間持続して酸素を取り入れる競技者 [マラソン・水泳長距離]や、少ない酸素でパフォーマンスを完遂する競技者[陸上の短距離・ウェイトリフティング]など競技特性に応じた様々なタイプの人がいます。前者は特性上、VO2MAXは高値を示すことになります。

私の見てきた中ですと、陸上長距離選手は約60ml/kg/min、陸上短距離選手だと約40ml/kg/minで、バラつきがありました。大学生など熟練の競技者ほどその競技特性に応じてVO2MAXがはっきりと分かれるようです。

 

 

さて、前置きが長くなってしまいましたが・・・

日本テニス協会ナショナルチームに所属する男子ジュニア(中学・高校生)~ユニバーシアード選手の有酸素能力を見てみましょう。実施された20mシャトルランテストから、VO2MAXを推定してみます(小屋ら,2014)。ちなみに各世代の平均回数は12~14歳で125回、15~17歳で136回、18歳以上で138回でした。

 

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また、とある男子プロテニスプレイヤー(全日本優勝経験有)のVO2MAXは、実測値で46.4ml/kg/minというデータでした。なんと、マラソンはジュニアよりプロの方が遅い可能性がでてきますね。どうやら実力者ほど「有酸素能力」が高いかと言われれば、そうではないようです。

 

運動になぜ酸素が必要なのか

そもそもなぜ運動をすると酸素摂取量が増えるかというと、筋肉に元々含まれている筋肉を動かす基本物質「ATP(アデノシン3リン酸)」を再合成しなければならないためです。

運動をするほどこの物質は消費されます。そのため呼吸を盛んにすることで肺へ多くの空気を取り入れ、血液に酸素を多く取り込み、それにより糖や脂質を分解することでATPを再合成するのです。

 

また、元々筋肉に貯蔵されている分のATPを使う(ATPーCP系)だけなら酸素を必要としません。この予め貯蔵されているATPで、約8秒間筋肉を動かし続けることができます。この時の力を有酸素能力と対照的に「無酸素能力」と呼ぶのです。

 

プロ・アマ問わず試合において1ポイントにかかる時間は5~10秒で、平均移動距離が2.5mくらいです(ferrauti,2003)から、大体のプレーはこの無酸素能力によるものだと考えられます。これ以上の運動時間だと、先ほどの話のように糖質を分解してATPと乳酸を産生する解糖系を経て、より多くの酸素を取り込んで糖質+脂質を分解してATPを産生する有酸素系へと移行していきます。この有酸素系の能力が有酸素能力なのです。

※解糖系にも無酸素寄り・有酸素寄りがありますがここでは無酸素寄りを前提に話をしています

 

テニスは貯蔵ATPを用いるATP-CP系と、使ったとしても無酸素よりの解糖系までのエネルギー供給系を主に用いることになります。試合で有酸素能力が求められる場面は少ないのです。

 

全日本優勝経験のある方が、有酸素能力でナショナルジュニアより低い値が出たことも含めて、有酸素能力ではテニスの実力を推し量れないことが分かりました。

ただ、有酸素能力が高いほうがキツくて長い運動に対する心拍数が低くなるのでハードな練習で集中でき、動きの質を落とさずに取り組めるようになるため練習効率は良くなります。基礎体力(有酸素能力)があれば練習効率が上がるというわけです。

 

 例:振り回し系ストローク練習で「〇〇球連続で入れる」ことを目標とした時、心拍数が上がって苦しくなり精度が落ちますが、有酸素能力が高ければ改善される。。。等

 

 しかし試合で必要なのは基礎体力ではなく、短時間の動きの質となります。

 

短時間高強度のインターバルトレーニングでも、限界まで追い込めた時に限り無酸素能力だけでなく有酸素能力も向上させることができます。なのでインターバルトレーニングでしっかり追い込むことをベースに体力向上に取り組むべきでしょう。

 

例:100m全力スプリント(15~20秒以内)→レスト(10秒)×7セット。。。等

→しっかり追い込めれば6週間でVO2MAXが13%、無酸素能力が35%向上する可能性があります。

 

まとめ

テニスにおいて有酸素能力は練習にはある程度必要ですが、試合においては1ポイントにかかる時間・移動距離の関係から(酸素摂取量が限界まで高まることがないので)重要ではありません。

また、有酸素能力はインターバルトレーニングでしっかりと呼吸器系を追い込めれば向上するので日々のマラソンなどで高めようとすることは非効率的です。

マラソンなどは、試合中の暑さに慣れるために行う脂肪を落とすために行う運動が久しぶりで激しい運動が傷害の危険性を持つなどの理由があれば行っても良いと思います。

 

俺なら人目もはばからず、家の裏でインターバル7本やっちゃいますね(笑)

テニスと体力ー有酸素能力ー

全身持久力=有酸素能力

 今回は動作から少し離れて、テニスに必要な体力要素について「全身持久力」をテーマに考えていきたいと思います。

 

全身持久力は体力やスタミナという言葉にも置き換えられており、学校の新体力テストのシャトルランテスト」でも測定されています。これは折り返し回数に応じて電子音がリズムアップして速度が上がりましたよね。このように運動強度が増加するとゼーハーゼーハーし、体が必要とする分の酸素を取り込もうとするのは実感して分かっていることと思います。

有酸素能力とはこのように強度に比例して体の中にどれだけ酸素を取り込むことができるかという能力のことで、シャトルランテストはこの有酸素脳能力を間接的に評価できるテストとなります。

 

今回は全身持久力を、体の中に酸素を取り入れる能力=有酸素能力に置き換えて、テニスに求められる体力について説明していきます。

 

テニスの試合では、マラソンマッチと呼ばれるような長い試合が(時には1セットマッチでも1時間を越えることが...)ありますよね。とすると筋トレだけではなく、マラソンのような有酸素能力のトレーニングも大切な気がします。

トップ選手の有酸素能力自体、一体どれほどのモノなのか覗いてみましょう。

 

有酸素能力の評価指標:VO2MAX

まず理論ですが、難しく考えずに数字に注目しながら読み進めていきましょう(∩゜д゜)

 

 酸素・栄養素が含まれた血液を運ぶ心臓や、循環させる各器官、身体の各組織での細胞の酸素利用能力などによって個人の有酸素能力は決定されます。

これら心臓・血管・呼吸器の生理学的な反応による運動能力はまとめて「呼吸循環系能力」と言います。

持久系の筋タイプだから疲れにくいという話ではなく、肺や心臓等に着目した「呼吸循環系能力」から有酸素能力を評価しようとする時の代表的な値がVO2MAX(最大酸素摂取量)です。

 

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上の写真のような装置(ほかにも自転車)で、被験者を疲労困憊まで走らせた際の呼吸を分析し、単位時間当たり最大でどれだけ酸素を体に取り入れる能力があるかを実測で明らかにできます。

イスに座っている時・このブログを見ている時など日常生活における酸素摂取量は約3.5ml/kg/minと言われてますが、この時体重80kgの人は1分間に約281mlの酸素を摂取している計算になりますね。

 

最大運動時には安静時の約20倍までこの酸素摂取量は増加します。各個人の体格によっても酸素摂取量は変化するため、必ず体重当たりの値(単位:ml/kg/min)で相対値を出します。

 

このVO2MAX(ml/kg/min)が高いほど、体重1kg当たり1分間当たりに使える酸素量が多い=細胞で生み出せるエネルギー量が多い=より長い距離を速度を落とさずに走れるということになります。

もっと簡単に言うと、より速いスピードで長い距離をランニングできる(フルマラソンのタイムが速くなる)ということです!戦闘力と一緒で、高い人程、有酸素系の競技能力に優れているのです。

 

VO2MAXの全国平均値を見てみましょう

一般成人男性・・・43ml/kg/min

一般成人女性・・・35 ml/kg/min

例:60kgの成人男性は1分間に最大約2580ml(約2.6L)の酸素摂取が可能

 

男性の方が活動する筋量が多い分、酸素を多く消費するため若干高くなる傾向があります。

 

前置きが長くなってしまいましたので、トップ選手のVO2MAXとテニスに本当に必要な体力については次回掘り下げてみましょう。

 

テニスとフットワーク-オンコートのSAQ-

テニスと最大疾走速度

さて、記念すべき第一回目の記事は「足の速さ」についてです。

球技スポーツにおいて、足が速いことは重要な要素となります。

ボールに素早く追いつくため、素早く陣地に戻るためなど当たり前ですが速いことは基本的に有利に働きます。

 

人間の最大疾走速度(トップスピード)というものは、直線走を行わせて20~25メートル地点において出現します。逆に言えば、およそ20mの助走がなければその人が持つ最大疾走速度は出せないということです。学校の体力測定にある50m走測定などはこの最大疾走速度の能力を評価しているわけですね。(補足:陸上選手は約50m地点で出現します。そのため短距離種目は100m~となります)

このような測定で明らかになったトップスピードはテニスにおいて必要なのでしょうか。テニスにおいて重要な、ボールに素早く追いつける、素早くポジショニングする能力とどのように関わりがあるのでしょうか。

 

 

スピード・アジリティ・クイックネス

 

スポーツの世界では共通して「スピード」「アジリティ」「クイックネス」という言葉を用いてフットワークを評価します。

 

スピードとは上述した最大疾走能力、いわゆるトップスピードの能力

アジリティとは、敏捷性のことで素早い前後左右への方向転換能力(切返し能力)

クイックネスとは、主に静止した状態から1歩目を素早く出すような反応能力です。

 

サッカー・野球・バドミントンなど競技に応じて空間が違えば、求められる能力は異なってきます。テニスはどの能力が重要なのか、テニスコートのサイズから考えてみましょう。

 

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シングルスコートは横幅約8m、縦幅約12mあります。

最大疾走速度が出現するのが直線走で20~25m地点ですから、20mの助走距離が取れないコート上においてはトップスピード能力の貢献はほぼ無いはずです

 

テニスコート上でのアジリティとは、打った後のサイドステップやクロスオーバーステップによってリカバリー(センターへ戻る)する方向転換動作と考えられます。ストローク動作の80%は2.5m~4.5m以内で行われている(Ferrauti ,2003)ため、この距離を素早く戻れることがアジリティの評価となります。ダウンザラインを相手に打たれ、サイドラインいっぱい追いついて打球した後などは7m位リカバリーする可能性もありますね。

 

クイックネスとは、ボールに対し素早くスタートし追いつくための、1歩目を素早く踏み出す能力です。これは、ボールを見て筋に刺激が伝わる反応(筋・神経系)、経験からの予測、スプリットステップのタイミングによって発揮されます。優れたクイックネスによって、ラリー中に素早くボールに追いつけると主導権を握ることができます。

 

以上を踏まえ、打点に素早く到達(クイックネス)し素早く戻る(アジリティ)能力がテニスにおけるフットワークの本質であると言えます。そのためこの2つを強化することがまずは重要です。共通しているのは素早く蹴り出す能力であり、筋・神経系を強化できるプライオメトリクストレーニング(ジャンプ→着地のエネルギーで素早く動き出すトレーニング)筋肥大を狙ったレッグプレス・スクワット等で強化することができます。予測能力は、日々観察力を磨くことがそのままトレーニングになるでしょう。

 

短距離が遅くても、どんなボールにも追いつける人は周りにいませんか?

テニスのフットワークは3・4歩内で優れていれば良いのです。